結論
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「他の所得者」という言葉自体は、現配偶者に限られません。
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所得税法上は「自分以外で、その人を配偶者・扶養親族などとして控除を取る可能性がある所得者」のことなので、元配偶者も含み得ます。
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ただし、
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思考プロセスと根拠
ステップ1:質問の論点整理
ご質問は、
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「所得金額調整控除申告書に関連して出てくる『他の所得者』とは誰まで含むのか」
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「その『他の所得者』に元配偶者も含めて良いのか」
という範囲論です。
ただ、実務上「他の所得者」という用語が登場するのは主に
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扶養控除等(異動)申告書のD欄
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ひとり親・寡婦の要件説明
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特定親族特別控除と配偶者特別控除の調整部分
であり、「所得金額調整控除」はそもそも他の所得者との調整規定がないことを、まず確認する必要があります。
ステップ2:適用除外や簡易判定の確認
(1) 所得金額調整控除に「他の所得者」との調整はあるか
国税庁「年末調整のしかた(令和7年分)」では、所得金額調整控除について次のように説明されています。国税庁
所得者(給与収入850万円超)が、
・特別障害者に該当する場合
・又は年齢23歳未満の扶養親族や、特別障害者である同一生計配偶者・扶養親族を有する場合に、
その給与収入(上限1,000万円)から850万円を引いた10%(上限15万円)を給与所得から控除する
さらに同じ資料で、
同一世帯の夫婦が双方とも給与収入850万円超で、23歳未満の子どもがいる場合には、夫婦の両方が所得金額調整控除の適用を受けることができる
と明記されています。国税庁
→ つまり、扶養控除のように「同じ子についてはどちらか一人だけ」という調整はなく、他の所得者との競合・排他規定が存在しない。
→ したがって「所得金額調整控除申告書」自体には、他の所得者を書いて調整するような欄・仕組みはない(現行の兼用様式を確認してもそのとおりです)。国税庁
この時点で、
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「所得金額調整控除を誰が取るかを、他の所得者(元配偶者など)と調整する必要はない」
という簡易結論が出ます。
ステップ3:他の文脈での「他の所得者」の意味の確認
とはいえ、申告書や説明書の同じ紙面上に「他の所得者」という文言が出てきて紛らわしいため、その範囲を整理します。
(A) 扶養控除等(異動)申告書 D欄「他の所得者が控除を受ける扶養親族等」
令和8年分扶養控除等申告書の「記載のしかた」では、次のような説明があります。国税庁+1
⑽ あなたの同一生計内に所得者が2人以上いるときは、
扶養親族等を他の所得者の扶養親族等としたり、その生計内の扶養親族等を分けて控除を受けたりすることができる。
このような場合には、その扶養親族等の氏名などを「D欄」に記載する。
ここから読み取れるのは:
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ここで言う「他の所得者」は
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「あなたの同一生計内」にいる他の所得者に限定
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典型的には「同居の配偶者、父母、成人した子など」
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離婚して別々に生活費を負担している元配偶者は、通常「同一生計内」ではないため、この意味での「他の所得者」には含まれない
したがって、
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D欄に書く「他の所得者」→ 原則として元配偶者は対象外(同居・同一生計を続けているという、かなり特殊なケースを除く)
(B) ひとり親控除・寡婦控除に出てくる「他の所得者」の用法
一方、国税庁の年末調整説明書では、寡婦・ひとり親の「生計を一にする子」の定義の中で、次のような記載があります。国税庁
ここでいう「生計を一にする子」には、
他の所得者の同一生計配偶者や扶養親族になっている人
又は合計所得金額が48万円を超える人は含まれない。
ここでのポイントは:
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「他の所得者」は特に「同一生計内」や「現配偶者」に限定しておらず、
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その子が「誰か別の所得者の同一生計配偶者」や「扶養親族」になっているか
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という事実関係ベースで判定
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条文・通達上も「他の所得者」を現配偶者に限定する規定はありません(単に「他の所得者」とのみ書かれています)。
よって、
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離婚後に子が元配偶者の扶養親族になっている場合、
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その子は質問者側から見ると「他の所得者(=元配偶者)の扶養親族」であり、
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上記の定義により、自分の「生計を一にする子」としては扱えない → ひとり親控除などの要件判定に影響し得ます。
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この文脈では、
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「他の所得者」=「自分以外の所得者」全般であり、元配偶者も当然含まれると解するのが自然です。
(C) 特定親族特別控除と配偶者特別控除の調整部分
特定親族特別控除の説明でも、「所得者の特定親族に該当する親族が他の所得者の配偶者特別控除の対象となる配偶者にも該当する場合…」とされ、その場合はどちらか一方だけにしか該当しないとみなす、と規定されています。国税庁
ここでも「他の所得者」は特に限定されておらず、
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その親族と税法上の関係(配偶者特別控除の対象かどうか)さえ満たしていれば、
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現配偶者・元配偶者・親・子など、誰でも理論上「他の所得者」になり得る扱いです。
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根拠資料一覧
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「年末調整のしかた(令和7年分)」国税庁
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所得金額調整控除の制度・夫婦とも適用可能である旨、特定親族特別控除と他の所得者との調整規定など。国税庁
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「令和8年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 記載のしかた」国税庁
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「あなたの同一生計内に所得者が2人以上いるとき」「他の所得者の扶養親族等としたり…」の説明。国税庁
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「令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 記載のしかた」国税庁
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D欄「他の所得者が控除を受ける扶養親族等」の文言。国税庁
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「源泉徴収のしかた(令和2年版)」および「年末調整のしかた」の寡婦・ひとり親の説明部分
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「生計を一にする子」には「他の所得者の同一生計配偶者や扶養親族になっている人」は含まれない旨。国税庁
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国税庁タックスアンサー「扶養控除」「2以上の所得者がいる場合の扶養親族等の所属」等
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複数の所得者間で扶養親族等をどちらに付けるかの基本的考え方。国税庁+1
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注意事項・リスク
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「同一生計」の実態判断が鍵
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D欄で問題になるのは「同一生計内の所得者」かどうかです。
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離婚後も同居して生活費を実質的に一体で負担しているようなレアケースでは、元配偶者が「同一生計内の他の所得者」と評価され得ます。事実関係により結論が変わり得る点に注意が必要です。
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子どもの「扶養親族」かどうかと、「生計を一にする子」かどうかは別の概念
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元配偶者の側で子を扶養に入れているかどうか(扶養控除の有無)と、ひとり親控除の「生計を一にする子」に該当するかどうかは関連しますが、要件の立て付けが微妙に違います。
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仕送りの有無・額、同居状況など、具体的事情で評価が変わることがあります。
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元配偶者側の実際の申告内容がわからないリスク
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実務上、元配偶者がその子を扶養親族として申告しているかどうかは相手に聞かないと分かりません。
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双方が独立に「自分がひとり親控除の要件を満たす」と思って申告すると、税務調査や市区町村からの照会で修正を求められる可能性があります。
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所得金額調整控除と扶養控除・ひとり親控除は別物
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所得金額調整控除は「年収850万円超・子どもや特別障害者がいる高収入給与所得者に対する調整措置」であり、原則として他の所得者との調整は不要です。
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一方、扶養控除・特定親族特別控除・ひとり親控除などは、複数の所得者で同じ人を二重に控除しないための調整規定が多数あります。この違いを混同しないことが重要です。
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最終判断は所轄税務署・市区町村への確認が無難
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特に離婚後の子の扱い(どちらが扶養にするか、ひとり親控除を取れるか)は、実務でも争点になりやすい部分です。
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ケースごとに事実関係が細かく違うため、最終的には所轄税務署やお住まいの市区町村に事前相談しておくのが安全です。
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