1. 結論
65歳の従業員を**「使用人兼役員(兼務役員)」**にする場合、労務手続きは大きく ①兼務設計(労働者性の確保)→②雇用保険の判定・届出→③社会保険の報酬変更対応→④労災(役員部分の穴埋め)→⑤社内規程・雇用条件の整備→⑥(会社法上の)役員就任・登記 が必須です。
特に実務で漏れが多いのは 雇用保険(原則NG、例外的に兼務役員として認められた場合のみOK) と 労災(役員は原則対象外なので特別加入の検討) です。 (根拠:雇用保険Q&A・被保険者の具体例、出典:根拠資料一覧No.1/2)
2. 思考プロセスと根拠
ステップ1:質問の論点整理
論点は「65歳で役員就任させつつ、労務上どんな届出・整備が必要か」。影響が出る領域は次の5つです。
労働者性(労基法適用の有無)
雇用保険(役員は原則被保険者にならない)
労災保険(役員は原則対象外→特別加入の検討)
健康保険・厚生年金(役員でも原則適用、報酬変更手続き)
高年齢者雇用(65まで義務、70までは努力義務の枠組み)
(根拠:雇用保険Q&A・被保険者の具体例/高年齢者雇用安定法改正の概要、出典:根拠資料一覧No.1/2/6/7)
ステップ2:適用除外の簡易判定(ここで分岐)
まず**「役員のみ」にするか、「兼務役員」**にするかで手続きが変わります。
3. 具体的な「漏れない」手続きチェックリスト
① 兼務設計(最初に必須:後工程の可否が決まります)
目的:兼務役員として“雇用関係がある”と説明できる状態にする。
代表権・業務執行権の有無、指揮命令系統(誰の指揮下で“使用人として”働くか)を整理
「役員業務」と「使用人業務」を職務分掌・組織図・評価・勤怠管理で分ける
報酬も 役員報酬 と 従業員賃金(必要なら残業代含む) を分けて根拠を残す
(根拠:兼務役員雇用実態証明書の提出要領、出典:根拠資料一覧No.3)
② 雇用保険(ここが一番“漏れやすい”)
2-1. 原則確認
2-2. 手続き(ケース別)
③ 労災保険(役員部分の“無保険”をどうするか)
労災は「労働者」向け制度なので、代表権・業務執行権を有する役員等は労災保険の対象外になり得ます(=労働保険料算定上も注意)。
(根拠:労働保険料算定の注意(役員報酬等・役員の例示)、出典:根拠資料一覧No.4) (都道府県労働局所在地一覧)
役員としての業務中の災害もカバーしたい場合:労災保険の特別加入を検討(電子申請案内あり)。
(根拠:厚労省「労災保険への特別加入」、出典:根拠資料一覧No.5) (厚生労働省)
④ 健康保険・厚生年金(多くは“資格は継続”、ただし報酬変更が発生しやすい)
法人事業所は厚生年金の適用事業所になり得て、被保険者の枠組みの中で取り扱います。 (根拠:日本年金機構「適用事業所と被保険者」、出典:根拠資料一覧No.10) (年金ネット)
役員就任で報酬体系が変わると、**標準報酬月額の随時改定(=月額変更届)**が必要になる典型です(社会保険の実務上の漏れポイント)。
(根拠:日本年金機構「随時改定」「月額変更届」、出典:根拠資料一覧No.8/9) (年金ネット)
⑤ 雇用条件・社内規程の整備(労務トラブル予防のため必須)
労働条件の明示:賃金・労働時間等の明示義務があり、施行規則で明示事項が定められています。役員兼務で職務や賃金の構成が変わるなら、雇用契約書/労働条件通知書の更新が安全です。
(根拠:労基法15条に関する厚労省FAQ/労基法施行規則5条、出典:根拠資料一覧No.11/12) (厚生労働省)
役員報酬規程・決定プロセス(株主総会/取締役会決議等)と、従業員賃金規程の整合を取る(雇用保険の“兼務”判断資料にもなります)。
(根拠:兼務役員雇用実態証明書の提出要領、出典:根拠資料一覧No.3)
⑥ (会社法上)役員就任・登記(労務とセットで漏れがち)
⑦ 高年齢者雇用(65歳・70歳の枠組み確認)
70歳までの就業確保措置は、複数の選択肢を制度化する努力義務であり、70歳定年を義務付けるものではありません。
(根拠:厚労省「高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~」、出典:根拠資料一覧No.6) (厚生労働省)
65歳到達のタイミングで「再雇用→役員就任」など制度設計を変えるときは、就業規則(定年・継続雇用・再雇用)と実態の一致を必ず確認してください。
(根拠:高年齢者雇用安定法の概要パンフレット、出典:根拠資料一覧No.7)
4. 根拠資料一覧(URLはコードブロック内に記載)
※システム仕様上、URLはコードブロックで提示します(本文の「出典:No.X」と対応)。
No.1 厚生労働省「雇用保険に関するQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000140565.html
No.2 厚生労働省(PDF)「被保険者に関する具体例(雇用保険手続き関係資料)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001573350.pdf
No.3 宮城労働局(PDF)「兼務役員雇用実態証明書(提出時必要書類等)」
https://jsite.mhlw.go.jp/miyagi-roudoukyoku/content/contents/002082325.pdf
No.4 神奈川労働局「労働保険料の算定は正確に(役員報酬等の誤算入・対象外の例示)」
https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudou_hoken/hourei_seido/_00015.html
No.5 厚生労働省「労災保険への特別加入」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/kanyu.html
No.6 厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1_00001.html
No.7 熊本労働局(PDF)「高年齢者雇用安定法の概要(パンフレット)」
https://jsite.mhlw.go.jp/kumamoto-roudoukyoku/content/contents/000825572.pdf
No.8 日本年金機構「随時改定」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha/tsukin/20120816-02.html
No.9 日本年金機構「月額変更届」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha/todokesho/20120816-02.html
No.10 日本年金機構「適用事業所と被保険者」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/20150205-02.html
No.11 厚生労働省「採用時に労働条件を明示…(労基法15条FAQ)」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyunhou_4.html
No.12 e-Gov法令検索「労働基準法施行規則(第5条関係)」
https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023
No.13 法務省「登記の申請期間(会社の変更登記等)」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00012.html
5. 注意事項・リスク(実務で“詰まりやすい所”)
雇用保険の最大リスク:兼務役員は自動でOKではなく、就労実態・指揮命令・賃金/報酬の設計次第で「被保険者ではない」と判断され得ます。ハローワークに事前相談し、求められる資料(定款・登記・賃金台帳・出勤簿等)を揃えるのが安全です。
労災の穴:役員業務中の災害が労災で出ない設計になり得るため、必要性に応じて特別加入を検討(特別加入にも要件・手続があります)。 (都道府県労働局所在地一覧)
労働保険料の算定誤り:役員報酬等の誤算入は指摘対象になり得ます(逆に、被保険者でない者の賃金は雇用保険の算定から除外)。 (都道府県労働局所在地一覧)
社会保険の“届出漏れ”:資格は継続でも、報酬体系が変わると月額変更の対象になり得ます。 (年金ネット)
会社法登記の期限:役員変更登記の期限管理(2週間)を、労務側が見落としがちです。 (法務省)
65歳到達時の制度整合:定年・継続雇用・役員就任を組み替えると、就業規則と実態の不一致が起きやすいです(雇用保険の判断資料にも波及)。
ごめん、65歳以上じゃなくて60歳に使用人兼役員になる話でした。使用人兼役員になるから給与はさがって報酬はあがるんだけど、その場合、高年齢雇用継続給付の賃金登録はしなくていいのかな?
1. 結論
**「賃金登録(=60歳到達時等賃金証明書の提出による賃金月額の登録)」は、原則 “必要”**です。
ただし前提として、その方が 兼務役員になった後も雇用保険の「一般被保険者」として認められていることが必要で、役員報酬が増えて賃金(従業員給与)が下がる設計だと、兼務役員としての被保険者性が否認され、そもそも高年齢雇用継続給付を申請できない可能性があります。
2. 思考プロセスと根拠
ステップ1:論点整理
ご質問の論点は2つです。
高年齢雇用継続給付の「賃金登録」は要るのか
兼務役員で“給与↓・役員報酬↑”のとき、雇用保険(=給付の前提)を維持できるのか
ステップ2:適用除外等の簡易判定(まずここが最重要)
高年齢雇用継続給付は、対象者が **「60歳以上65歳未満の一般被保険者」**であること等が要件です。 (厚生労働省)
そして取締役等は原則被保険者ではなく、兼務役員でも“労働者性が強く雇用関係が明確”な場合に限り加入可とされています。
さらに、労働局の「兼務役員にかかる雇用保険被保険者資格要件証明書」では、
➡ よって、給与を下げて役員報酬を上げると、(i) 兼務役員としての被保険者性が揺らぐ/否認される、(ii) 給付計算上も「賃金」は“給与部分のみ”で見る、という整理になります。
ステップ3:賃金登録が必要か(本題)
高年齢雇用継続給付は、「60歳到達時等の賃金月額」と、各月に支払われた賃金額の低下率で判定します。 (厚生労働省)
この「60歳到達時等の賃金月額」は、**“六十歳到達時等賃金証明書等の提出により登録された賃金月額”**として扱われます。 (厚生労働省)
そして、厚労省Q&Aでも 初回申請に必要な書類として
➡ したがって、初回の受給資格確認をするなら、賃金登録(六十歳到達時等賃金証明書の提出)は「不要」にはなりません。 (厚生労働省)
実務対応(漏れない手順)
A. まず「雇用保険の被保険者として継続できるか」を確定
B. 被保険者としてOKなら「賃金登録+初回申請」
C. 「給与↓・役員報酬↑」のときの記載・管理の注意
3. 根拠資料一覧
1) 厚生労働省「Q&A~高年齢雇用継続給付~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158464.html
2) 厚生労働省「雇用保険制度 > Q&A~事業主の皆様へ~(取締役・役員の取扱い)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000140565.html
3) 愛知労働局(PDF)「兼務役員にかかる雇用保険被保険者資格要件証明書(提出にあたって)」
https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/var/rev0/0120/0071/kenmuyakuin.pdf
4) 厚生労働省(PDF)「高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)支給申請書(様式)」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000178879.pdf
4. 注意事項・リスク
最大のリスク:給与を下げて役員報酬を上げると、兼務役員としての被保険者性が否認され、高年齢雇用継続給付そのものが使えない可能性があります(ハローワーク判断)。
給付の「賃金」は 従業員賃金のみで見られる整理なので、**総支給は維持でも“賃金だけ下がる”**設計だと、実務上チェックが厳しくなることがあります(台帳区分・職務分掌・勤怠管理の整合が重要)。 (厚生労働省 Jサイト)
「各月に支払われた賃金額」は 支払日基準なので、締日・支給日・欠勤控除の反映タイミングで申請書の数値がズレやすいです。 (厚生労働省)